「終身雇用守れぬ」発言に隠された本音

経団連の中西宏明会長が「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」と発言して波紋を呼んでいるそうです。


 

22日、都内で開かれた経団連と大学による産学協議会で、学生の通年採用の拡大を盛り込んだ報告書がまとまった。報告書では、春季一括採用に加え、個々の企業ニーズに応じて雇用する仕組みの必要性などが盛り込まれ、「(専門性の高いスキルを持つ人材などを通年採用する)ジョブ型雇用を念頭に置いた採用も含め、複線的で多様な採用形態に秩序をもって移行すべきだ」と明記された。

従来の新卒一辺倒ではなく、既卒にも広く門戸を開くことにつながる採用活動は大いに歓迎すべきだが、気になるのは経団連の“本音”が別にあるのではないか、という疑いだ。

「企業は従業員を一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」「一括採用で入社した大量の人を効率よくトレーニングする考え方は、今の時代には合わない」

22日の会見で、こう強調していた経団連の中西宏明会長(写真)。19日にも「正直言って、経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」と発言して波紋を呼んでいるが、この言葉通りに解釈すると、経団連が必要としている人材とは「若く」て「人材育成の必要のない即戦力」かつ、「低賃金」で、「いつでもクビOK」ということだからフザケている。

【日刊ゲンダイDIGITAL 配信】

この

「終身雇用」については賛否両論ある所ですが、私はこのシステムの素晴らしさを支持したいと思っています。

その理由はこれほど企業と人間(従業員)が一体になったシステムは他にないからです。

日本に

特化しているとも言われてきた「集団力」の素晴らしさを支えてきたのは正にこの「終身雇用」に他なりません。

多くの資源を持たない日本という国が、名だたる大国に伍して経済的発展を成し遂げた原動力こそが「集団力」という人的資源であり、その精神的支柱とも言えるものが「終身雇用」であり、そしてこれらはこれまでに限ったシステムではなく、今後も有効なシステムだと思っています。

そこで

「一生働こうと思えば働ける」という企業の存在が、どれだけ従業員の安心感を生み出し、またどれだけ結果として企業のために献身的になれたかを考えてみれば明らかです。

自分の生活を一生保証してくれる企業のために、懸命に能力を出し切るというシステムはある種の運命共同体を利用したシステムとも言えますが、それだけに強力なパワーを生み出すシステムとも言えます。

欧米流の考え方として

「成果主義」という考え方がもてはやされた時期もありましたが、私は個人の成果は全て集団の成果に依存していると思っています。

たとえある人が大きな成果を上げたとしても、そこにはそれまで培われてきた先人の知恵や周りの助力が大きな役割を果たしていることが多く、それを思えば、必ずしも個人としての成果と言い切ることは難しいと思います。

どんな成果も、

どちらかと言えば、個人力ではなく集団力の成果だと思いますので、集団を遇するのが自然であり、個人を遇するのは間違いだと思います。

その意味では企業が大きくなったらその成果を従業員と分け合うということが自然であり、株主優先でいくなら、従業員の持ち株を大いに増やすべきだとも思います。

昔は

企業が人を育てましたが、これは経験者が新人にノウハウを継承することで集団力を高め、全員で恩恵にあずかることを目指した行動だと思っています。

もし個人の成果を重視するシステムなら、誰も自らのノウハウを他人に継承する気にはならないし、更には派遣社員のノウハウを当てにするシステムなら、派遣社員はそこから学んだことを自らのためだけに活かし、派遣先の企業には平均的ノウハウを提供することに終始することになり、つまりは企業としてのノウハウは成長できないものと思われます。

結局、

優秀な人であればあるほど他企業に引き抜かれたり、独立されたりといったことになり、企業としての技術的安定性は担保できなくなるのではないでしょうか。

そしてこの「終身雇用」の素晴らしさは、消費力を自ら高める点にもあります。

つまり生涯安定的に働ける人達は、生涯安定的な消費者として存在し続けるため、生産のための強力な応援団となります。

現在の

経済は自らはどんどん生産を増やし、その消費を他国に依存しています。

そして他国の消費が落ちると景気の先行きが不透明などと表現されていますが、本来は自らの生産物は自らが消費することが正しい経済姿勢だと思います。

生産が増えなければ

経済は停滞するため、各国は生産力を増大させ続け、やがては貿易による消費力は全て分け取りとなって失われる時代がきます。

結局その時代まで、生産者自らが消費力を増大させるという選択肢は採用されることなく、それだけ生産性向上の速度は抑えられるということになるようです。