水道民営化の海外失敗例、調査は3例のみ

政府が成立を目指す、水道事業を「民営化」しやすくする水道法改正案に関連し、海外で民営化の失敗例が相次いでいる問題で、公営に戻した海外の事例を、厚生労働省が3例しか調べていないことがわかったそうです。

政府が成立を目指す、水道事業を「民営化」しやすくする水道法改正案に関連し、海外で民営化の失敗例が相次いでいる問題で、公営に戻した海外の事例を、厚生労働省が3例しか調べていないことがわかった。調査は2013年に実施し、07~10年の事例だった。再公営化事例は00~14年に35カ国で180件あったとの報告もあり、野党側は再調査を求めている。

改正案は参院厚生労働委員会で4日午後にも採決され、可決される見通し。

再公営化の調査数は、この日の厚労委で立憲民主党の石橋通宏氏が厚労省から確認したと明らかにした。先進国5カ国と途上国5カ国を対象とした3例だった。厚労省が策定した「新水道ビジョン」に関する調査で、法改正のためではなかったという。

根本匠厚労相は「失敗した事例をしっかり分析し、水道法を改正して公の関与を強化する今回の仕組みにしている」と強調。「大事なのはその事案に共通する問題点、課題。本質の問題は何か。それを踏まえて私は制度を作っている」と数の多さの問題ではないとの認識を示した。石橋氏は「3例でそんなによく言えますね」と反論した。

【朝日新聞デジタル 配信】

何故、民営化を目指すのか良く分からないので調べてみました。

現在、

水道の供給は自治体(市町村)によって行われており、財政状況の良くない自治体では水道への設備投資や水質管理のコストを増やす訳にはいかず、その結果、断水が起こったり、水道環境の悪いところがでてくるといった問題が生じているようです。

民営化によりいくつかの周辺自治体を包括するような仕組みにすることで、そのような問題が平均化され、その結果断水する地域ではそれが減少したり、水道環境の悪い箇所があれば設備を交換したりと、細やかな改善がみられ、「水道をより安定的に供給できる」ということがメリットとして挙げられているようです。

つまり

各自治体ごとに格差がみられたものが、ある一定範囲での平均化が行われることで全体的な向上が図れるということのようですが、諸々の状況変化を考えると「水道料金の値上げ」が行われる可能性は高いものと思われます。

現在の水道料金では逓増制というシステムが採用されているそうで、使用量が少ない家庭では料金が給水原価を下回るため、その下回ってしまった料金は利用料の多い顧客(工場など)から回収することで補填していると言われています。

この考え方は

「所得の再分配」といって国営の公共事業ならではのものだそうですが、これが民営化された場合、民間企業はこの考え方を持つ必要はなく、より利益率の高い料金システムを使うことができるということで、事業の考え方が大きく変わることになります。

結局、自治体での値上げとなるとなかなか簡単にはいかないので、民営化してそこにさせようという強い意図があるのではないでしょうか。

このような状況下ではありますが、

海外での民営化の失敗が相次いだことから、結果的に「水道は公営のほうが良い」という再公営化の流れが世界の主流となりつつあるようです。

イギリスでは1989年に国内の財政状況の悪化を受けて水道の民営化を実施したものの、民間企業への負担が大きくなって水道料金が上昇し、水道の品質の悪化、漏水などの問題も発生し、1999年に水道事業局によって平均12%の料金引き下げを強いられましたが、その結果、民間企業の経営状況が悪化し、現在では非営利事業体と外資系企業を中心に民営化が実現している状況だそうです。

更に

マニラでは1997年に水道の民営化を実施したが経営状況が良くならず、海外企業の参入が始まり、水道料金の過剰な値上げにより低所得者の水道利用が禁じられたり、今まで無料で水を使えていた公共水栓なども使用禁止になったそうです。

ボリビアでは水道民営化後、外国企業の参入で水道料金が跳ね上がり、これを受けてボリビアの住民は大規模デモを起こし、200近い死傷者を出す結果となったそうです。

同じ値上げをするとしても、民営化による値上げではなく、公営での値上げの道を選択する方が、まだ「自由が故の無軌道」を避けられるような気がしますが、いかがでしょうか。